早く、早く。 このままここで。
大人の振りをするのは随分と上手くなった。
当たり障りのない、耳障りのいい綺麗な言葉をつらつらと並べては、また口だけだと己に失望する。
「いつまでこんなことを続けるつもりだ、お前はなんだ、何者でどこへ向かっている、何がしたいんだお前は」
早く大人になりたい、目標、責任、維持すること。
全て私が持っていないもので、手にしたいと渇望するもの達は、いつだって掴むとまるで砂漠の砂のように留まることなく、指の間から抜け落ちていく。
上手く掴めない私を、嘲笑っているかのように、スルリと逃げて行く。
思春期の時の、何もかもが鬱陶しく、全てが敵に見え己の殻の中に閉じこもる。
自分以外の人間は全てを害悪だと考え、違う視点から物事を見る余裕なんて一切ないなくて。
今1番苦しいのは僕でしょ?
僕が1番可哀想なんだよ。
体ばかりが大きくなって大人になっても、心はいまだ子供のままだ。
中途半端に育ってしまった、不完全な子供のまま。
わたし。
毎日、後ろめたさを感じながら息をする。
「分かっている」という言葉が私を苦しめる。
こうあるべきだと、ある程度の正しさみたいなものを理解しているからこその苦しみが、ジワジワと私を侵食していく。
ある意味では、1番障害のことを理解しようとしていないのは私なのかもしれない。
薄くて小さなガラスの器に、溢れんばかりの濁った水を溜め込んで、割れないように、周りを汚さないように、まるで腫れ物を触るように。
私は遠くから、私を蔑むような目で見つめている。
眺めている、傍観している。
私は私に、どう触れてあげればいいのかまだ分からない。
臆病者に。
怖かった、思い出した昔にも今みたいな気持ちになったことがある。
これから一体何が起こるのか、どうなるのか。
家族は、友達は、私は。
予想がつかなくて、計り知れないほどの力でねじ伏せられている感覚。
私たちじゃあ抗えない。
怖くて怖くてたまらなくて、膝にも手にも力が入らなくて家族のいる場所に行って、小さくていた。
「もしこれから先、たま同じようなことが起きて、あの感情で頭がいっぱいになって怖くて怖くてたまらなくなるのかな」
そう思うと、「早く死にたい、楽しい時に楽しいまま死にたい。絶望を味わいながら死ぬのは嫌だ、死ぬのはこわい」
と、頭の中は一瞬でそんな考えに取り憑かれた。
もちろん家族や友達死ぬことなんて考えたくもない。
絶望も苦しみも味あわずに生きたい。
私はいつからこんなになってしまったんだ、こんな、
甘さ。
今ここから出ようとしないのは、覚悟を捨て、勇気を捨て、何も見ず聞かず、未来を諦め、弱い人間のままであり続けているのは、償いたいから。
過去に犯した過ちのその罪の重さを知り、償いたい。
誰からも責められず咎められもせず、罰すら与えてもらえないのなら、自らに罰を与えよう。
他にも理由はあるけれど、私がここから出ない一つの大きな理由だ。
弱いままで、中途半端な不幸の中で、自分に罰を与えている。
つもりだった。
なんて烏滸がましいのだろう。
「弱いままでいることで、人に許されようとするな。」
私のやっていることは、償いなんて立派なものなんかじゃあなくって、ただの自己満足だったんだ。
分かっていた、今私のやっているとこが何のみいもなさないことを。
償いどころか、戒めにもなっていないことを。
これはただの甘えだ、浅はかで愚かしい行為だ。
本当に自分に罰を与えたいのなら、ここら外へ出て苦しむべきなんだ。
ここにい続けて感じる苦しみとは引けにならないほどの苦痛を、苦渋を味わうべきなのだ。
本当に私は、自分に甘い。
詰めが甘い。
吐露。
通院日の前夜、私は沢山考える。
カウンセリングでなにを話そうか、なにを打ち明けようか。
考えて、書いて、頭の中で言葉がまとまる。
今の私の気持ちと、何に一番苦しんでいるのかをまとめて「よし、明日話してみよう」毎回そう思っい床につく。
朝、昨夜の私は何処にも居なかった。
昨夜、私は彼女と明日のことについて話し合った記憶はある、なのに彼女がいない。
彼女と話し合い、一緒にまとめた言葉も何処にも無いのだ。
ふと手を見ると、血塗れになっていた。
理解した、「あぁ、またか」また私は彼女を殺したのか。
いつもそうだ。
そのせいで結局いつもどうり、カウンセリングでは何を話したらいいのか分からなくなって、ただただ時間を無駄にする。
彼女のまとめた私たちの言葉は、すっかり冷たい塊になっていて読めなくなってしまっていた。
何度でも、私は夜の私を殺す。
私の心が漏れ出てしまわぬように、誰にも覗かれてしまわぬように、何度でも。
道化師。
目の前の人が気に入る顔で、気に入るであろう言葉を吐いて。
周りの人間の顔を見て、頼まれてもいないのに気を使って。
勝手に疲れて、勝手に泣いて。
私は一人で何をしているんだろう。
無自覚。
自分のやりたいことをして、自分の言いたいことを言って。
中心は自分だった、とても楽しかった。
だからみんなも楽しいのだろうと、思っていた。
あれは悪意だった。
無自覚に悪意をばら撒いていたことに、気がついてしまった。
まるで、通り魔じゃあないか。
なんて卑劣で、残酷なのだろう。